静岡の取り組み
2016.11.16

静岡県の農業版オープンイノベーション(2)
農業と健康を結びつけ、健康長寿を産業化(1/2)

農業はいま大きな転換期に差し掛かっている。農業関連企業の大型買収報道が相次ぐ。IoT、ビックデータ、人工知能、ロボットなどの最新技術が農業にも取り入れられ、大幅な生産性向上に期待がかかる。その一方で合意に至ったTPP協定が発効すれば、国内農業に大きな影響が及ぶ。需要面では、ゲノムなどの生命科学や社会健康医学などの発達により、食と健康、病気との関係性の解明が進んでおり、機能性食品に代表される健康増進効果の高い食品、その材料としての高品質な農産物の需要が、世界の中で急増することが見込まれる。

こうした農業分野の潮流を踏まえ、静岡県が「先端農業推進プロジェクト」を始動させた。このプロジェクトは農業のICT化を推進するだけでなく、ベテラン農家の農作業等に関する暗黙知を形式知化する技術の活用や、レーザーを使った病気の早期発見といった最先端の科学技術等を導入する。また、栽培環境を自由に制御できる次世代栽培システムを設置し、高い機能性を有する農産物を安定的に生産できる最適栽培条件の探索を行う。同プロジェクトは、農業と健康を結びつけ、健康長寿を産業化したいという静岡県知事川勝平太氏の強い思いが反映されている。プロジェクトの推進役で、静岡県を先端農業とともに、農業・食品・健康一体型の科学技術・産業の世界の拠点にしたいと語る同県副知事の難波喬司氏(写真)にプロジェクト立ち上げの背景・現状について伺った。

(聞き手:テクノアソシエーツ 宮崎信行)

――静岡県で「先端農業推進プロジェクト」を始めるキッカケは何ですか。

このプロジェクトは、攻めの農業を進めるという川勝平太知事の強い思いからスタートしました。静岡県の産業における農業分野の占める割合は低いものです。付加価値でいうと、工業分野の35%に対して農業分野はわずか0.5%です。

しかし成長という視点から見ると、農業は今後大きく成長する分野です。日本全体を見てもGDPに占める農業の比率は小さいのですが、国も農業を今後の成長産業と位置づけて力を入れています。

写真●先端農業推進プロジェクトの推進役の静岡県・難波喬司副知事
写真●先端農業推進プロジェクトの推進役の
静岡県・難波喬司副知事

農業の価値・重要性は生産額や付加価値額という指標だけで測ることはできません。最終的には人の健康や文化にかかわります。また、食や景観の魅力による観光振興など、大きな経済波及効果を持っています。静岡県はその典型例です。静岡県は隣の山梨県とともに健康寿命日本一、世界一の地域です。川勝知事の狙いも農業と健康を結びつけ、健康長寿をブランド化、産業化することにあります。よく医食同源・薬食同源と言います。健康にいい食物を生産し、それを食べ、健康に暮らす。農業と健康を結びつけて経済の活性化につなげていくことが重要です。一方、観光面では茶畑をはじめとする農地が静岡県独特の世界に誇るべき景観を作っています。その景観は静岡県の観光的価値を高めています。

――先端農業推進プロジェクトの特徴はどんなところにありますか。

プロジェクトの最大の特徴はオープンイノベーションにあります。これまで農業生産には多様な分野の科学技術が利用されてきませんでした。いろいろな分野の研究者の技術を農業に取り込むことによって新たなイノベーション、生産性革命を起こしていこうと考えています。

――具体的にはどういうことでしょうか。

先端農業推進プロジェクトには、すでにいくつかの研究者と組織に参加していただいています。例えば、慶應義塾大学環境情報学部准教授兼医学部准教授の神成淳司氏や理化学研究所光量子工学研究領域光量子技術基盤開発グループ光量子制御技術開発チームのグループディレクター/チームリーダーの和田智之氏などです。

神成先生はICTを活用した暗黙知の形式知化を進めています。篤農家の栽培作業、農作業の様子をアイカメラなどを使って収集・分析し、それと篤農家の暗黙知とを関連づけることで、暗黙知の形式知化、学習可能化を進め、農業の「匠の技術」の継承・技術の早期習得を進めようとしています。和田先生はレーザーを使ったガス検知技術により、イチゴに大きな被害をもたらす炭疽病の発生をいち早く捉えるための研究を進めています。現在、理化学研究所は研究成果の社会実装を進めており、理研本体の計測機器の利用も可能となる方向です。

生産側の技術に加え、もう一つ重要なのが需要側です。今年5月に疾病予防と健康増進に効果のある食品機能性の研究・流通を推進する(一社)アグロメディカルフーズ(AMF)研究機構(理事長:吉川敏一京都府立医科大学学長)が設立されましたが、その拠点を沼津市におくことになりました。AMF研究機構は、高い機能性について、その体内での吸収性まで考慮して、科学的エビデンスに基づきアグロメディカルフーズ(AMF))の効果を実証し、農場から食卓までのバリューチェーン構築を目指しています。

先端農業推進プロジェクトは、すでにこうした方々や組織の協力の下で進められています。

――先端農業推進プロジェクトの拠点についてご説明ください。

プロジェクトの推進拠点となるイノベーションセンターは、沼津市西野にある東海大学沼津キャンパスの跡地に設置されます(図1)。土地の総面積は約24万m2で、第一期の施設の総面積は9720m2。2017年夏に、まず5階ある建物の1~2階に次世代栽培システム研究室や管理運営ゾーン、研究開発・多目的ゾーンを設けます。

この拠点は単なる研究拠点に留まりません。いわゆるオープンイノベーションの産業振興拠点とします。拠点には、企業や農業法人などの民間事業者等へ貸し出す研究室や共用の高度な分析機器を設置します。そしてプロジェクトに参加する事業者や県内外の支援研究機関が、それぞれの技術力、開発力、アイデアを持ち寄ることで新しい付加価値を持つ農作物や食品を生み出してほしいと考えています。

図1●先端農業推進プロジェクトの研究開発拠点イノベーションセンター
図1●先端農業推進プロジェクトの研究開発拠点イノベーションセンター

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