インタビュー
2016.03.18

「オープンイノベーション静岡」:中堅企業等約200社を訪問し、支援企業に対して、大手企業の現役経営者がアドバイス

地域経済の活性化を目的に官民が協力して平成27年2月に策定された「静岡県産業成長戦略」。その中の主要施策の一つが産業戦略推進センター「オープンイノベーション静岡」である。「オープンイノベーション静岡」にはユニークな企業支援策がある。県職員と民間派遣職員が同県内の中堅企業を中心に約200社を訪問し、その中で支援を希望する企業に対して、県内大手企業の現役経営者や産業支援機関の代表者等から構成されるアドバイザリー・ボードが、支援対象企業の経営者に新たな事業展開に対する助言を行う。静岡県産業成長戦略の推進役で、センター長を務める同県副知事の難波喬司氏に「オープンイノベーション静岡」の狙いについて伺った。(聞き手:テクノアソシエーツ 宮崎信行)

――静岡県では新たな産業成長戦略を策定し、その中で「オープンイノベーション静岡」を設置しました。

静岡県産業戦略推進センター「オープンイノベーション静岡」のセンター長を務める同県副知事の難波喬司氏

様々な産業が集積する静岡県は、1人当たりの県民所得も、東京都、愛知県に次いで3位と、比較的恵まれた地域と言えます。しかし、近年、製造業が新たな事業展開に苦しんでいます。県内経済を持続的に発展させていくためには、地域企業の活性化や新産業の創出が欠かせません。国内市場が縮小する中、大手企業はどんどん海外へ進出しています。大手企業の進出先に工場を建設し部品を供給している中堅企業もありますが、その一方で地域に留まり新しい事業を展開しようとする企業が多いのも事実です。

そこで静岡県では平成27年2月、「静岡県産業成長戦略」を策定しました。その柱の1つが「地域企業の事業活動の活発化」で、マーケットインに基づく製品づくりや販売戦略策定の支援に取り組んでいます。県ではこの戦略の実効性を高めるため、まず、中堅企業支援のプラットフォームを官民共同で構築することが必要だと考えました。そこで同年4月、新たな事業展開が期待できる中堅企業を集中的に支援するため、産業戦略推進センター「オープンイノベーション静岡」を設置しました。

――他県でも様々な産業政策に取り組んでいるかと思いますが、静岡県の産業政策、「オープンイノベーション静岡」の特徴について教えてください。

「オープンイノベーション静岡」には三つの大きな特徴があります。一つめは、主な支援対象を中堅企業に置いている点です。従業員数概ね100~200人、売上規模数十億円、かつ独自技術等を保有している企業です。この点は、産業成長戦略を策定する会議でも議論されました。中堅企業が国内外の販路を開拓し、新たな事業を展開できれば事業に厚みが出てきます。その結果、部品や要素技術を有する中小企業と中堅企業の取引が拡大し、地域経済全体として好循環が生まれるのではないか、という指摘が同会議の中でありました。そこで「オープンイノベーション静岡」では、地域企業の新たな事業展開のけん引役として中堅企業を主な支援対象としています。

二つめは、新たな事業展開に挑む中堅企業のために、事業の目利き役としてアドバイザリー・ボードを設置した点で、それが有効に機能しています。アドバイザリー・ボードは、県内大手企業の現役経営者、産業支援機関の代表者等で構成されています。アドバイザリー・ボードは毎月1回開催され、ほぼ毎回ボードメンバー全員が参加しています。会合では、支援企業の経営者が新たな事業展開に関するプレゼンテーションを行います。初年度は8社に対して支援を実施しています。ボードメンバーは、プロダクトアウトからマーケットインへの転換の必要性、その考え方に基づく製品づくりの重要性、今後の事業展開の可能性について具体的なアドバイスを行います。中には厳しい指摘もありますが、支援企業にとってその声自体が貴重な情報になっています。

三つめは、現場主義、つまり企業目線で支援プラットフォームを構築・運営している点です。「オープンイノベーション静岡」を開設し、まず、有望な技術や新たな事業展開の可能性を持つ中堅企業を中心に約200社を県職員と民間企業から派遣された職員が訪問しています。県の新たな産業支援に関する情報提供が訪問の目的ではありません。企業が抱える経営課題、独自製品の事業化ニーズ、企業立地の環境ニーズを把握すること等が狙いです。県も単に支援の場を用意するだけではなく、企業のニーズに根差したマーケットインの考え方に基づく支援に取り組んでいます。

――具体的な成果はありますか?

例えば、「2本目の事業の柱をいかにつくるか」を課題と考えている企業がアドバイザリー・ボードで、逆に「今ある技術力を武器に本業を強化すべきではないか」といった指摘を受けました。同社は事業方針を見直し、既存取引先との技術交流会や意見交換会を積極的に開催し始めました。また、新たに海外メーカーとの交流を開始するなど、本業での既存取引先との関係強化と新規顧客開拓に動き出しました。

静岡県では、産業技術総合研究所、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)との三者間で「次世代産業の育成に関する協定」を締結しています。その一環でオープンイノベーション静岡のアドバイザリー・ボードが、光技術関連で産総研と共同研究を行う企業を評価し、7件の研究プロジェクトが動きはじめました。

このほか静岡県では、次世代産業の育成に向けた重点施策として航空機産業、ヘルスケア産業、CNF(セルロースナノファイバー)などの分野で研究開発プロジェクトを推進しています。

担当職員の意識も変わりつつあります。実際に中堅企業を中心に約200社を訪問し、様々なニーズを直接ヒアリングしたことで、現場の企業目線で企画を作り、企業とのコミュニケーションが図れるようになりました。

――「オープンイノベーション静岡」の取り組みを含め、この1年、大きな戦略を描いて産業政策に取り組んできたわけですが、今後に向けて何か課題は見えてきましたか?

課題の一つとして、地域企業が市場と直接接点を持つ支援策の必要性が挙げられます。中堅企業が「マーケットインに基づく製品化」と言われても、一朝一夕に市場の声を拾えるわけではありません。エンドユーザーとの間にはインテグレーターやディストリビューター、商社、OEMの供給先など、様々なステークホルダーが居るわけです。そこで中堅企業が市場と直接コミュニケーションできる機会を持てるプラットフォームが必要だと考えています。県としては今年からWebを活用した情報発信のプラットフォームを構築し、市場の声を直接吸い上げる仕組みを設ける予定です。

もう一つは、県内外あるいは海外の現場ニーズを踏まえたオープンイノベーション型の研究開発プロジェクトを組成することが必要だと考えています。そうした研究開発プロジェクトを通して有望技術を持つ地域企業や県外企業、研究機関が集まる仕組みを作りたいと考えています。次世代産業の創出に向けた施策において、現在CNFや農業の分野でそうした取り組みを実施していますが、他の分野にも広げていきたいと考えています。

県では、来年度に向けて従来の戦略を進化させた「静岡県産業成長戦略2016」を策定しました。産業成長戦略の取り組みを具体的な成果につなげるために、現場に軸足を置き、様々な支援策を講じていきます。それによって地域経済のけん引役となる中堅企業の成長を促し、本県産業の活性化につなげていきたいと考えています。

■ 静岡県産業成長戦略2016について

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